Short Story


Long View



「こんにちは。ここって、何処ですか?」

 

人気のない路地裏で煙草を吸っている俺に、微笑みながら彼女は言った。甘い、桃のような香りを仄かに漂わせた少女だ。

「はあ?」

何を言ってやがる?とは言わなかった。彼女が腕に持った、大振りのサバイバルナイフに目を留めたからだ。

「ここって、何処ですか?」

薬物中毒者特有のトロンとした瞳は、俺ではなく、何処か遠くを見ている。

妙なのに会った。そう俺は思った。

「ただの人気のない路地裏だ。……ちなみに、銃刀法違反になるからナイフは隠しといた方が良いと思うぞ」

彼女は何も言わずに立っている。さっきの俺の忠告が聞こえたような感じはしない。

煙草の煙と一緒に溜息を吐きながら、さっさと逃げる算段を始めた。面倒は御免だ。

その行為もむなしく、突然、少女がナイフで切り掛かってきた。酷く緩慢な動作であったため、避けるのには大して苦労しなかった。振り向きざまにナイフを叩き落とし、鉄板を詰めたブーツで少女の腹部を軽く蹴る。――伊達に喧嘩慣れしているわけではない。

たったそれだけの動作で少女は壁まで吹っ飛び、動かなくなった。

一瞬、殺しちまったか?とも思ったが、微かな呻き声がその考えを否定した。最低でも生きてはいるようだ。

彼女の体に手を当て、傷の具合を調べた。

特に外傷はなく、骨も折れていない。内臓も無事なようだ。

みぞおちにでも当たって、動けないだけとの判断を下したが、見捨てて行くのも薄情だ。アパートにでも連れて行って、一晩寝かせてやることにしよう。

少女を肩に担ぎ上げた。あまり飯を食ってないらしく、その体は驚くほど軽かった。

 

(……それなりに整った顔立ちをしていることだし、後はお楽しみあれだ)

 

誰も俺を責めはしないだろう?俺はこいつに殺されかけたのだ。それに、こいつも俺が養ってくれると分かると、喜んで体を差し出すさ。抱くだけの女にはもう飽きたことだし、多少鍛えて殺人鬼に仕立てるのも良い。丁度、知り合いの殺し屋に『当て』がある。

 

路地を出て、俺は真っ先に空を見上げた。何年も昔から癖になっている行動だ。

遥か上空には丸い月がある。空気が濁っているのだろう、その姿は昔より醜い。

 

2012年、現在。

ここはどこかと尋ねられると、人は皮肉と侮蔑を込めてこう言う。

 

――『パラダイス』東京

 

犯罪者の楽園。堕落と退廃の街。

そして、俺の住んでいる街。







えっと、一応初めてのShort Storyです。
最近読んだバイオレンス小説が多分に影響与えちゃってます。
一応、退廃してて自堕落な雰囲気を出してみたかったんですが、上手くいってませんね。

ちなみに、タイトルの「Long View」はグリーン・デイっていう洋楽のグループが歌ってる曲です。
とはいうものの、話の内容とはまったく関係ありませんが。

興味を持ったら、聴いてみて下さい。




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