Short Story


Rolling Stone



11/09:S.TUGE

 

――転がり果てる石は、一体どこまで行けるのだろう。

どこで止まり、何を見るのだろう。

車の車輪か、草花か。

はたまた己の同族か。

 

すべからく、物には意思が宿るという。

果たして、石は何を望んだのか。

何かを望んだと仮定して、

何も成し得ぬ物に、成功の道はあるのだろうか。

 

可能性は、とても儚い。

結局は『運命』の二文字に帰着するのか。

石の命は、ひどく長い。

それに比べて、如何に僕らの短命なことか。

 

『動』なる短命と『静』なる長命と。

『動く者』と『動かざる物』と。

共に在ることは、決して叶わない。

どちらも、ただ可能性のみが無限にある――

 

「あれ?」

書いていて、その矛盾に気が付いた。

「可能性が無限にあるなら、共に在ってもいい訳じゃないか。一体、何書いてるんだろ」

国語の授業で出された課題。それは『詩を書いてこい』というものだった。

いくら詩を教えているからといっても、所詮は個人の才能に左右される曖昧なもの。提出さえすれば点数をくれるのだろうが、何となく真剣になってしまった。

いつの間にか、時計の液晶はAM12:30を表示していた。始めてから優に一時間は経っていることになる。

「いけない、まだ数学の課題が残ってるんだった」

取り敢えずペンを置き、『決して叶わない。』の部分を消した。『可能性のみが無限にある』というところは個人的に気に入ったので置いておく。

提出期限には一週間もあるのだ。そのうち良い節を思い付くだろう。

ひどく楽観的な考えを打ち出し、僕は数学の課題を取り出した。

 

問題を解いていると、コンコン、という音が聞こえた。

振り返ると、背中に翅の生えた少年が、窓の外からこちらを覗いている。

無視するのも忍びないので、手を振ると、少年は喜んだようだ。

窓を開けてやると、しばらく僕の周囲をふわり、ふわりと漂ったあと、バイバイと言って、また窓の外へ飛んでいった。

――『あれ』は風だ。悪戯好きで、寂しがりやで、甘えん坊の、風。

僕は平生からそういうものを《視る》ことができる。

木や、水や、空気や、土や、火。それら宿るとされる、俗に精霊と呼ばれるもの。

 

11/10:A.KANGAWA

 

学校から家までの帰り道のことである。

人気のない山道を通っていると、少女が独り、泣いているのを見つけた。

寒気が日本に到来し、かなり寒くなったというのに、その少女はやけに薄着だった。

手で顔を覆い、道端ですすり泣いている姿は――もはや夕暮れ時ということもあり――何か怪談じみたものを感じたが、そういうものを引き付け易い体質の俺にとっては、平凡な日常の光景である。

「なあ、どうしたんだ?」

ごく自然に声を掛ける。目の前で悲しんでいるものがいれば(それがどんなものであれ)、放ってはおけない性格なのだ。

声を掛けられた少女は、泣くばかりで何も応えない。俺はめげずに尋ねた。

「道に迷ったのか?」

コクリ、と少女が頷く。

「そうか。……よし、お兄ちゃんに任せろ。家まで連れて行ってやる」

「……エ?」

少女は意外にあっさりと泣き止んだ。

目元を擦りながら顔を上げ、こちらを向く。

――その顔には貌がなかった。

常人なら悲鳴を上げて逃げ出すところだろうが、生憎とそんな健全な精神は持ち合わせていない。むしろ、少女が思った通りの存在だったことに安堵を覚えた。

「家の方向はわかるか?」

貌のない少女の頭を撫でながら言った。

「……ワカラナイ」

少女は首を振る。

その声の響きから、俺は少女が浮遊霊の類ではないことを悟った。

「お前、何に宿ってる? 自分を指差せるか?」

「……ワタシ、コレ」

少女が指差したのは、一個の石だった。

「ワタシ、コロガッテ……ココニ、キタ」

ああ、そうだったのか。俺にはこいつが何かが分かった。

「お前、精霊の類か」

自然界の様々なものに宿る存在、精霊。こいつはどうやら石に宿る精霊らしい。

人間の姿をとっているなら、こいつはおそらく人間の身近な場所にあった石だろう。それも、お守りか何か、崇められるものとして。

「お前は、寂しいだけか」

俺は溜息をついた。それを見て、少女は泣きそうな顔になった……ような気がする。

こいつは、俺が自分を見捨てていくとでも思ったのかもしれない。

「まったく。いくら寂しくても、嘘はいけないな。素直に『寂しい』と言えばいいんだ」

俺は少女の指差した石を拾い、ポケットの中に入れた。そして、少女の体を抱え、自分の肩の上に乗せた。精霊なだけあって、重さは石と同じ程しかない。

少女は驚いたようだが、落ちそうになると、俺の頭にしがみ付いた。

「一緒に居てやるよ。だから、泣くな」

返事はなかったが、少女は頷いたかもしれない。







お気付きでしょうが、某洋楽グループからパチッたタイトルです。
この前友人から言われたのですが、「お前、これって洋楽ばっかだな」とのコト。

………
……


べ、別にいいじゃないか。そんなこと。
趣味がちょぉぉぉっと偏ってるだけさ。

さて、この Rolling Stone は如何だったでしょうか。
途中で一人称が変わっていますが、これは視点が変わっているためです。
なお、少し裏設定ですが、S.TUGAで視点を担っているのは、前回『魂の木』の主人公です。
病気が完治した彼は、無事に病院を退院。現在は高校一年生という設定。
A.KANGAWAの視点は……誰でしょう。よく分かりません。
今までのキャラでないことは確かですが(当たり前)。




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